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任意接種ワクチンと対象疾患について その① おたふくかぜワクチン


皆さんこんにちは。ヒガです。
9月になり、朝晩はちょっと涼しくなってきて、夜には虫の鳴き声も聞こえ、秋の気配を感じますね。
一方で日中はまだ猛暑日近くまで気温が上がることもあり、まだまだ熱中症に気をつけて過ごす必要はありそうです。
さて、今回は任意接種ワクチンと、その対象疾患について、まとめてみようと思います。
一気にいくつかのワクチンについてまとめようと思ったのですが、長くなってしまったので、今回はその①として、おたふくかぜワクチンについてまとめます。

①おたふくかぜとは?

おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)は、ムンプスウイルスにより全身性ウイルス感染症で、唾液や尿を介して飛沫感染、もしくは接触感染によって感染します。
3~6歳の子どもに好発し、主な症状は発熱、痛みを伴う唾液腺(主に耳下腺炎)の腫れです。
両方の耳の下にある耳下腺がぷっくり腫れて「おたふく」みたいになるのが、名前の由来です。
耳下腺炎自体は自然に治ることが多く、それほど問題にはなりませんが、問題となるのは多くの合併症です。
合併症は、おたふくかぜの発症年齢が高いほど、発症頻度と重症度が高くなると言われています。
治療薬はなく、ワクチンによる予防が唯一の対策となります。

②おたふくかぜの合併症

・無菌性髄膜炎
おたふくかぜにかかった人のうち1~10%に発生し、脳や脊髄の周りにある髄液の中にムンプスウイルスが入りこみ、炎症を起こすことで発症します。
一般的に重症化はせず後遺症なく軽快しますが、強い頭痛、嘔吐を伴い、入院治療を要することが多いです。
・難聴
おたふくかぜにかかった人のうち0.1~1%に発生します。
多くは片側だけが重度の難聴となりますが、4%ほどは両側の難聴を生じます。
片側の難聴の場合は、小さい子どもの場合は難聴の症状に気づくことが難しく、保護者も知らないうちにめまいや耳鳴り、音の方向性を把握しにくいことによるコミュニケーション障害などが起こり、社会生活に支障をきたしてしまいます。
また、ひとたび難聴を発症すると、そのほとんどは治療効果がなく、生涯残ることになります。
・脳炎
おたふくかぜにかかった人のうち0.02~0.03%に発生します。
とてもまれな合併症ですが、重い後遺症を残したり、死に至ることもあります。
・精巣炎
思春期以降の男性がおたふくかぜにかかった場合、20~30%に合併します。
成人患者における入院理由のうち一番多くを占めています。
発症後、精子生成機能が低下しますが、不妊になるのはまれです。

③おたふくかぜワクチンとは

おたふくかぜワクチンの成分は、毒性を弱めた弱毒生ワクチンであり、接種されたワクチンウイルスが体内で限局的な感染を起こすことで免疫反応を誘導します。
世界的には、2020年1月時点で、麻疹・風疹・おたふく混合ワクチン(MMRワクチン)として122ヶ国で定期接種化されており、おたふくかぜの流行はほとんどなくなっています。
一方で、日本はまだ任意接種であることから、接種率は40%程度にとどまり、数年ごとに全国規模の流行が繰り返し起こっています。

④おたふくかぜワクチンの副反応

他のワクチンでも見られるような接種部位の腫れや痛み(17~30%)が最も多く、他に耳下腺の腫れ(2%以下)もときどき見られますが、いずれも数日でおさまります。
おたふくかぜワクチンの副反応で最も問題となる副反応は、ワクチンウイルスによる無菌性髄膜炎です。
症状は、前述のおたふくかぜの合併症と同様に発熱、頭痛、嘔吐が主なもので、症状の強さによっては入院治療を要することもあります。
頻度は0.05%前後と、おたふくかぜの感染に伴うものと比べるととてもまれですが、安全性の重視されるワクチンの副反応としては無視できず、日本での定期接種化が難しい理由の一つです。
海外では合併症発症率の低いワクチン株が採用されていますが、その分だけワクチンによる免疫力の持続期間が短いことが分かっており、定期接種終了後しばらくして免疫力が落ちてきてからの感染(ブレイクスルー感染)が課題となっています。
接種後20日前後から、ときに2ヶ月以上経過してから発症する場合もあり、健康観察に注意が必要です。

⑤接種推奨時期

接種時期は、おたふくかぜが好発する年齢から、1歳の早期、および小学校入学前1年間の2回接種が推奨されています。
また、ワクチンの接種年齢が低いほど副反応の発生率が低くなることがわかっており、1歳になったら初回接種を早めに行うことを推奨する理由となっています。
当院では、1歳になったら麻疹・風疹混合ワクチンと水痘ワクチンとの同時接種を、小学校入学前1年間に麻疹・風疹混合ワクチンとの同時接種をオススメしております。

⑥おわりに

おたふくかぜワクチンは副反応としての無菌性髄膜炎について留意する必要はありますが、おたふくかぜによる無菌性髄膜炎や難治性の難聴などの合併症を予防するメリットのほうが大きいと考え、当院では接種を推奨しております。
定期接種化への動きもあるようですが、予防のためにはかかってしまう前に初回接種を済ませることが大切なので、時期を逸することのないよう気を付けていただけると幸いです。

ではでは、今回はこのへんで。